時代と共に変わる上司像
「背中を見て学べ」「仕事は盗むもの」と教わってきた世代—80年代から90年代初頭に若手社員だったならば、まず上司の仕事ぶりを見て学び、自分なりに勉強するのが当たり前でした。
しかしその頃と今はビジネスのスピードが全く違います。会社は即戦力を求める時代に変わり、
部下が自然と育ってくれるのを待っている余裕がなくなってきています。
とは言え、組織が目標を達成して成長していくために「部下の育成」は今も昔も変わらず大切な事。
これからは背中で語るのではなく「教えるべきことや伝えるべきことを面倒がらず丁寧にする」という
今の時代に合った部下の育て方が必要になるのです。
背中ではなく弱みを見せる
上司から積極的に、部下の育成に携わることが必要になったものの・・・
背中を見て学んできた現リーダーたちの多くは、どのように関わって教えていけば良いのか
具体的にイメージが持てないのが正直なところかも知れません。
多くの上司が「自分の人間らしいところを部下の目に触れさせること」よりも、
「自分の感情を隠し、権力を使った表現で部下に一方的な指示を出すこと」のほうがすぐれたリーダーだと感じています。
と伝えておられるのは、日本メンタルヘルス協会代表で心理カウンセラーの衛藤信之氏。
部下に弱みを見せることは負けであり、「馬鹿にされる」「部下がつけあがる」と感じているから
「自分の本心は言ってはいけない、教えたくない」と思っているわけです。
しかし自分を開示せず相手の心を開くことは難しいため、いつまでも信頼関係は生まれません。
とある中小企業社長の話ですが、経営に行き詰まり色々な問題を一人で抱えていました。
傍で支えてくれている優秀な部下が二人いたのですが、相談する訳にはいかないと思っていました。
ある時、セミナーを受けに行った講師から「部下に本音を打ち明けるべき」と言われます。
「そんな事は絶対できない」と最初は思っていた社長ですが、「他に方法はないかもしれない」と
思い立って部下二人を呼び出します。
意を決して現状を打ち明け、「恥を偲んで言う。どうか力を貸して欲しい」と頭を下げた社長に向かい
部下の一人は「僕に任せてください!!」と顔を紅潮させて社長の手を取り、もう一人の部下は黙って涙ぐんでいたそうです。
その後その会社は業績を伸ばし、ご子息に引き継がれています。
このように勇気をもって本音を伝えることで、部下は上司を理解し、信頼しようとします。
お互いに偽らない関係は組織の雰囲気を変え、自助作用が高まっていくのです。