2019.03.22writer / ロココスペース

「社員満足度」と「渡らないカモ」

 

無給残業、長時間勤務、パワハラ、虐め、のような問題が常態化している会社のことを
「ブラック企業」と呼ぶようになり、流行語大賞になったのが2014年のこと。

それから数年経ち、あらゆる企業で「社員満足度を上げよう」という動きに変わってきた。
そうすると……それはそれで別の問題が起きてきた。

「渡らない鴨」が増殖するのだという!

社員満足度が上がり、居心地が良い仕事環境になる。
それは良いことなのだが……
今度は危機感がなくなり、さほど頑張らなくても給料は下がらない。ハラスメントや解雇の心配もない。

つまり飛ばなくてもエサがもらえる環境になるということ。

「ブラック企業」が減ったら今度は「ブラック社員」という黒い鴨が増殖するという皮肉を、誰が想像しただろうか!

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この「渡らない鴨」
実は環境問題でも本当に存在し、2015年あたりには話題になっていた。

本来なら渡り鳥である鴨は、秋頃から日本に飛来して翌年の3~4月には北の方へ渡るらしい。
しかし、毎日餌をあげる人間に餌付けされ、自ら餌を捕らなくなってしまった。
さらに体重増加や栄養バランスが偏り、遠くまで飛べない鴨が発生し出したのだそう。

体力を使って必死にならなくても、決まった時に食べ物やお金がもらえるなら、飛ばないし働かなくなるのも当然だろう。

世界的に有名な企業は、もっと以前にその意味を社是にしている。
1959年当時IBM会長だったトーマス・ワトソンは、「ビジネスには野鴨が必要なのです。そしてIBMでは、その野鴨を飼いならそうとは決してしません」と言った。

これは、デンマークの哲学者であるセーレン・キルケゴールの書物から引用したもの。
困難にも立ち向かっていく渡り鳥の精神、つまり「野鴨の精神」こそIBMの社員に必要であると説いたという。

決して、敢えて苦労しなさいと言う訳ではなく、なま温かい環境に身を置く危険を伝えているのだと私は理解した。

現実の野鴨の話では、毎日餌をくれていた老人が亡くなってしまい、本当なら自力で餌を探し始めないといけないのに……野生を失ってしまったために飛べなくなっていた。そこへ雪崩が起こり、なすすべなく飲み込まれて死んでしまうという内容だ。

会社に増殖しつつある黒い鴨は、自らの意思ではなく自然にそうなってしまった可能性がある。
そう思うと、例えば、サボっている先輩や上司・仕事を覚えようとしない部下にも、怒りは沸かなくなるのではないだろうか。

 

変えるべきなのはエサの内容やタイミング。
エサの内容とは社員満足度を上げる制度。タイミングとは実施頻度やフィードバック。

ブラック企業が悪いわけでも、ブラック社員が悪いわけでもない。

黒い鴨が再び渡り鳥になれるように、日々頑張っている研修事業者の仕事がある。
エサを正しく与えようと、噛みつかれながらも試行錯誤している中小企業の社長さんがいる。

きっと野鴨が増えていくに違いない。